銭を喰らう魔物かな//市文化会館自主文化事業

 人の趣味趣向は多種多様….個人が身銭を切って好きな道楽に興じる分には誰も文句は言わないが、その銭金が公費(税金)となれば話は別だ。これまで、「特殊な専門分野」であるなどを理由に見過ごしてきた伏魔殿。「文化」という名の金喰い魔物をあぶり出しましょう。記事カテゴリー「ノンノンフィクションアワー」の開演です。

2月16日(木)、東御市文化会館運営委員会。この席で、総額ざっと2200万円の年度会館主催事業の概要が固まった。文化会館自主文化事業の予算額は前年比600万円減の1800万(18,367,000円)。昨年、開館20周年記念の能楽など大型公演を終えたものの、未実施の開館記念事業(文化協会合唱部会による市民運営委員会方式によるオペラ公演)の繰越し実施分450万円を合算すると、実質2,280万円となる。

公演内容を含め、こうした内部の事業計画は求めない限り、一般公開することは滅多にない。文化会館(民間NPO)にすれば公演日程の変更や中止などの可能性もありえることから計画段階の事前公開は避けたい方針だが、事業計画はもともと公開原則にしたがうべき筋の情報だ。すでに運営委員会という公の席で報告承認した時点で公開すべきと思うが、行政もまた、幹部クラスの判断を待たねばならぬほど公開に慎重だった。この自主文化主催事業費は現在、市議会で審議中の来年度予算教育費項目に大枠で含むものの、市文化会館指定管理業務委託費(NPO収入)68,051,000円 の内で処理され表記されない。肝心のところが藪の中では、原資の税を託す市民はまるで木偶の坊(でくのぼう)の扱いと、ボクは思う。

市行政(市教委・社会教育課・生涯学習係)は、会館条例や指定管理委託契約をラインとして、現場(指定管理団体・NPO)の具体的な企画決定には直接的に踏み込めない。「興行公演などは特殊で専門的だから一般には扱えない」といった文化行政の及び腰もある。しかし、行き過ぎた現場任せは、地域文化の柱となる会館本来の意義(地域文化創生など)の基本的使命までも、指定管理企業にあずけ放棄することにつながりかねない。芸能興行の特殊性(配給会社との折衝や契約、公演準備ほか)を理由に、文化会館を一部の者だけの伏魔殿と化してはいけないということだ。

 自主文化事業とは、開館から20年にわたり毎年2千万円規模を注ぎ込む会館が企画する公演。現在、同会館を五年契約で指定管理する民間NPO法人が作成した。文化会館(NPO)は、市民からの要望企画をどう汲み上げたか。会館運営を仕切るこの委員会の提案をどう盛り込んだか。さらに、「文化会館を考える集い」であがった市民要望は反映しているか。公演個々に市民文化醸成の精神はあるか。 

 さらに、文化会館運営の基幹を担い将来を見越した運営構想や戦略を徹底的に審議するはずの運営委員会(市長委嘱、11人構成=文化協会長・社会教育委員・子育て団体代表・公民館長・校長会長・老人クラブ連合会長・小中吹奏楽部顧問・農業青年クラブ・公民館講師パート=)も既に、指定管理団体(NPO法人)に全面的に依存し形骸化している恐れはないか。「運営委員会は事業計画の審議機関ではない」(NPO法人)…事業計画は運営委員会への報告説明を終えた時点で実施に向かう。ここに文化会館の将来を見据えた方針や戦略はない。文化会企画そのものを提案する公募制度やこれを審議する制度が未整備であることもあり、会館主催事業は指定管理団体の今や独断場だ。さらに言えば、この運営委員会の前委員の中にはNPOから直接業務委託を受け、報酬を得る者も出るというお粗末さ。これが社会教育委員までも兼任していた事実があるのはどうしたわけか。

関係の皆さんに代わって、東御市文化会館自主文化事業計画を公開する。

 「文化」についてのボクの判断基準はただ一つ。私の暮らしにそれは必要か否かだ。たとえば、喰わねば死ぬ主食のお米と公演を比較してみる。ちょっと極端だが、残り少なくなった米びつの蓋をあけて、米を買うか、それとも芸能チケットを買おうか、と考えてみる。

公演の主役は、テレビにやたら出てくる有名人だとか、可愛いくて顔が小さいとか、やさしいとか、歌がお上手とか、オペラや能楽は高尚なもんだとか、これぞ芸術とか…そうした評判はどうでもよい。明日の米とひきかえにできるかどうか….これが基準だ。

今年度市文化会館自主文化事業計画(※現在企画中の事業も含む)

 1、6月開催 「ベッキー(サンミュージック)」  ▽事業費 630万円 (出演料等380万円) ▽入場料等 3千円(赤字見込327万円)▽出演料 380万円 ▽宣伝広告、音楽著作権料 60万円 ▽人件機材外注関係 90万円

 2、6月開催 「メリーウイドウ、新たな一歩開館20周年記念事業(合唱部会)」(前年度繰越事業) ▽事業費 450万円 ▽入場料 2100円(赤字見込300万円) ▽出演料等 350万円 ▽宣伝広告費、音楽著作権料 20万 ▽人件、機材、外注関係 80万円

 3、9月開催 「演劇『モモ』 劇団・うりんこ公演」  ▽事業費 250万円(入場料1000円) ▽出演料等 198万円 ▽宣伝広告、音楽著作権料 32万円

◇演劇体験講座 ▽事業費 80万円(入場料1000円) ▽出演料等 57万2千円 ※公演事業と講座を併せ、赤字見込額290万円

 4、9月開催 「映画、昔の名作選、『ローマの休日』ほか」 ▽事業費 34万円(入場無料、赤字額32万円) ※委託業者未定(約25万円)

5、11月開催 第2回市総合文化フェスティバル(文化協会) ▽事業費 25万円 ▽入場無料

6、12月開催 クリスマスピアノコンサート(公募発表会) ▽事業費 30万円 ▽入場無料 ▽出演料等 15万円

7、時期未定 市民参加型イベント(3月頃を予定) ▽事業費 90万円 ▽入場無料※公募による企画採用、ホールのみ開催 ※実行委員会による運営

8、2月中旬 「木の仕事展」 ▽事業費 28万5千円▽入場料 1000円▽販売

9、年5回 ホールミニコンサート ▽事業費 568万円 ▽入場料 1000円(売り上げ150万円、赤字見込418万円) ▽出演料等 500万円 ▽宣伝、音楽著作権料 63万円

10、月1回 FMとうみ「夜会」 ▽事業費 201万円 ▽入場料 100円 (赤字見込 195万円) ▽出演料等 132万円 (12グループ出演)

 文化をことさら高みに祀り上げる人や、芸能タレントに明日のお米と同等の価値を認める人は、きっと論外な見方となるに違いない。今年度自主文化事業、その芸能公演、文化公演は、必要か……

もう一度確認するが、「ベッキー(サンミュージック)」 ▽事業費 630万円 (出演料等380万円) ▽入場料等 3千円(赤字見込327万円) ▽出演料 380万円 ▽宣伝広告、音楽著作権料 60万円 ▽人件機材外注関係 90万円…..事業費630万円を大雑把ながらお米に換算すると白米14,5トンだろうか。

一人の芸能人を囲む食卓に、特級銘柄のブランド米630万円分(白米10㌔袋4500円)14㌧が用意された。7百人ほどが集まり、2時間ほどの晩餐会だった。この日一番の大食漢は舞台上の芸能人で、用意した飯の半分以上、およそ8400㌔㌘、市販にして380万円分を一気に喰って見せる。むろん一人じゃ喰いきれないから、お付の者も陰でこれを喰う。用意した残りの米は、地元の広告屋やらなにやら晩餐会産業に味をしめた者への振る舞い飯だ。「みんな最高!お腹いっぱい食べるのよ。よく噛んで味わいながらね!」…集まった7百人余は、それぞれに自宅から白米7㌔㌘を持ち寄って一緒の食卓に座った。しかし、自分が持ってきた米を少し食っただけで、それ以上は喰いきれるものではない。 

 ノン・ノンフィクション 『大飯喰らいのキャサリン』 へ続く

ノン・ノンフィクション 『大飯喰らいのキャサリン』

妙な夢をみた。豪快というか凄まじいというか、あまりの奇天烈さに笑いながら目が覚めた。ピンク地が鮮やかなステージの緞帳(どんちょう)があがると、そこには青い目のお人形さんのようなかわいい娘がにこやかに微笑みながら立っていた。キャサリンちゃんだ!照明がまばゆい。…..ボクはふわふわと浮遊しながらオペラ座の天井桟敷席のような高みでそれを眺めている….夢の話である。

 舞台の袖から数人の鼓笛隊が登場し娘の周りを回りながらラッパや太鼓を鳴らした。先頭は黄金色のタキシードに身を包んだ蝶ネクタイ姿のラッパ吹きだ。コオロギのような面をしたクラリネット吹きやら、恰幅のいい腹をしたカエル面が打ち鳴らす鉦や太鼓が続いた。燕尾の馬乗りの裾が床を引きずるほどに小さな、半はげ頭の小男が、曲芸師よろしくちょこまかと踊っている…どこかで見た顔だ。最後尾の男は、人生のやつれを糊で固めたよう顔をしている。どこかアジの干物のようでもある。胃の痛みに堪りかねたようにして腰を折り、その腰を時おり思い出したように律儀に伸ばしつつ、キャサリンちゃんに向かって紙ふぶきをまいている。その後を、竹ほうきを手にしたひどくやせた婆さんが髪を振り乱しながらはき回っている。この者だけが一重の浴衣姿なのはなぜか分からない。スニーカー履きで足元を固めているあたりも奇異なのだった。みんな六十歳をすぎているだろうか。定年退職した団塊の世代というやつか。もてあまし気味の余生を若い頃に習い覚えた楽器や太鼓でにぎやかし小遣い稼ぎをしているのかもしれない。やる気があるのやらないのやら…、奏でる旋律は哀愁というより、間が抜けていて、半音あげたり下げたりするたびによろけてしまうろくでもないものだった。

 ラッパ吹きはキャサリンちゃんの周りを一回りすると、見世物小屋の客寄せのように舞台の袖で前口上を放つ。楽団員だの歌唄いだのというものは腹式呼吸を覚えたせいで妙な腹の据わり方をしているものだ、と私は思う。私は詐欺師とも付合いがあったが、このあたりもみんな品が無いだけで、似たような面の者も結構いるぞと感じている。ラッパ吹きの男が口を開く。カメレオンみたいな白んだ舌が不気味だが、入れ歯はしていないようだ。「さぁて、お立会い!事実は小説より奇なりとはこのことよ!ここに控えますは、皆さまテレビで御馴染み、金髪娘のキャサリンちゃん!舶来のかわいいおべべがお似合いね…」黄金色のカメレオンは得意気だ。会場から歓声があがる。キャサリンちゃんが歌でも歌うのかと思っていたが、違うらしい。と、突然、極彩色のライトが舞台を照らす。

 舞台の奥のついたてを破って一台の大型トラックが登場する。これはたまげた!びっくり仰天だぁ。どよめく会場、車体一面にネオン装飾を施したデコトラが、ラッパホーンをパカパカ鳴らしつつ轟音をあげている。まるでちっこい雷神さながらだ。会場はやんややんやの騒ぎである。 さてはパニック!阿鼻叫喚か、と思いき、大歓迎の歓呼である。観客の中には上着を脱ぎ捨て半裸のまま拳を突き上げている者もいる。すると、さっきまで竹箒を手にうろついていたスニーカーの痩せ婆ぁが現れ、舞台を駆け回ったかと思うや、トラックの荷台に駆け上がる。猿か軽業師が血相変えてすっ飛んでいるような身のこなし、合わせの浴衣の胸元がはだけてあばら骨が浮いている。婆ぁはデコトラの荷台に山と積んだ袋を担ぎ上げては、舞台に叩き落とし始める。ギャぁとかガオゥとか唸り声をあげつつ、一心不乱のその形相は三途の川の葬頭河婆(そうずかばばぁ)のような面つきだ。波のような会場の歓声!床を叩く足踏みが地鳴りとなって壁を這い天井にまで響いてくる。トラックから叩きつけられた積荷からは、純白の粒が輝きながら飛び散り、舞台を雪のように染めていく。すると、積荷のてっぺんによじ登った葬頭河婆(そうずかばばぁ)が今度は大きなのぼり幡を取り出し、まるでどうでもいい丘を占拠した国軍兵士の誇らしさで大きく左右に振る。幡には、墨で黒々と文字が書いてある。「信州八重原産 コシヒカリ」と書いてある。

 米だ! それも精米したてのブランド米だ!トラックに満載した米袋はおよそ14、5トンはあるだろう。米を担ぎながら、婆(ばばぁ)が仁王立ちでなにやら叫んでいる。「みんなみんな、喰いやがれ!もっていきやがれ!630万、630万円分の米袋!」観衆がその声に呼応する。「ロッピャクマン!サンジュウマン!ロッピャクマン!サンジュウマン!」連呼の嵐…すると、今度は、桃色の和服を着てたすき掛けの娘達が舞台に踊り出る。白塗りの厚化粧と照明で客席には知れないが、結構年増の女たちだ。熱気で乾いたドーランがひび割れて、白いかさぶたみたいに顔に張り付いている。壮絶だ。…アッ、また思い出したぞ、女たちの中に、饅頭屋の女将もいる …こんな所にまで顔出しやがって! とボクは夢の中で思っている。

「ヤットナ!ヤットナ!それそれッ、ヤットナ!」阿波踊りのような祭り囃子に乗りながら、女達は神輿を担いでいる。神輿の上には、真っ赤な漆塗りの巨大なお椀が乗っていて、そこには、てんこ盛りの銀飯が湯気をたてているのだった。神輿を舞台中央へをつけると、またまたキャサリンちゃんの登場だ。いつのまにか衣装替えをして、スパンコールだらけのボディースーツを身に着けている。セクシーとは言わないまでもタイトでキュートがキラキラだ。私の老眼乱視の目には、ちとこたえるキラキラだ。それは例えば、田んぼのスズメ脅しの銀色の玉光だ。あまりの眩しさに、ボクはは宙から落ちかける。

 次から次と運ばれてくる大きな飯のお椀だった。金色のタキシード姿のラッパ吹きがはしゃぎながら客席をあおっている。楽団の中で元気がいいのはこの男と竹箒の痩せぎす婆あ。紙吹雪をまいた干物男ときたら、ラッパ吹きの傍らに座り込んだまま仏頂面で鼻をほじっている。…他にも昆虫やら深海魚やら鶏やらモグラやらヒキガエルに似たような面が控えて立っていた気がするが…また、うなされると怖いので思い出さないことにする。神輿にまたがったキャサリンちゃんは舞台中央に来ると、ぐるぐる片腕を回しなが歓声に応えマイクを掴んだ。「今日は私の晩餐会(ばんさいかい)に来てくれてホントにありがとう!」….◎▽■@$д「バンサンカイ?」と確かに彼女は言ったのだ。多量の八重原産コシヒカリといい、巨大なてんこもりの飯といい、630万の掛け声といい、これはまさしく晩餐会なのだ。キャサリンちゃんが叫ぶ。「みんな、今夜は最高!ノッテルカイ!」。最前列に陣取った若者が、舞台を見上げ絶叫している。…まるでテレビショッピングで夜中に叫ぶジャパネットの男の、さらにそ首を絞めたような金切り声だ。背中にザックを背負ったまま妙な踊りをする者もいる。底知れぬ熱気、熱情だ。会場の興奮をはかりつつ、歓喜のあまりの泣き真似を見せるのがキャサリンちゃんの真骨頂だ。一旦盛り上がった興奮をしずめ、さらなる高みへ導く高等テクニック。波の背の背に客を乗せウエーブに持ち込む算段だ。どよめきとともに、会場を束の間の静けさが襲った。キャサリンちゃんは涙を浮かべゆっくりとした口調で言う。「神様!奇跡をありがとう」。さすがにスターだ、たっぷりとタメのつくりも完璧だ。神様も奇跡もキャサリンちゃんの下にあったのだ。するとキャサリンちゃんは叫ぶ。先ほど流したウソ涙はどこへ消えたやら、涙腺を自在に開閉できる技はお手の物だ。ちんやり冷えた空気を見透かして、再び高みへと扇動するつもりらしい。「いつものカウントダウンだぞぉ~!」だと?「みんなも一緒に!おなかいっぱいにしちやうぞぉ~」と腹を叩いてみせている。キャサリンちゃんはさらに激しく「3、2、1、バン、サン、か~イ!!!!…五色の照明が踊っている。観客が呼応する。「ハライッパイ!ハライッパイ!ハライッパイ!ハライッパイ!」。ラッパ吹きと婆ぁがあおる!「メシオクレ!メシオクレ!メシオクレ!」。場内アナウンスががなる!「バンサンカイ!それ、バンサンカイ!」

 「胃痛吐き気を覚えた方はすぐご退場ください。会場横に救急車が待機中です。さあさあしっかりお食べください!大田胃酸、正露丸、六心贋、御岳薬草贋の提供でお届けします」  …」 夢だから当たり前だが、見たこともない晩餐会だった。ボクは納めた年貢(税金)の重さを忘れて「よくもまぁ、あんな小娘がこんなにたんと喰えるもんだ!」と呆気にとられていたと思う。これが文化会館自主文化事業の①の企画を読んだボクの感想だ。長々と駄文にお付き合いいただきました。ありがとう。

 

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