信濃胡桃 シナノクルミの冬景色

 

北に浅間連山、南に蓼科山、西には遠く北アルプスの純白の山並み・・・

天広がりの丘のてっぺんに近く、一本の木が枝を広げていた。

樹齢10年といったところだろうか、信濃胡桃(シナノクルミ)の樹だ。

この地を拓いた古老の 分厚い手にも似たその枝が、天をわしづかみにするように空に向かっている。

東信濃地方、とりわけ浅間山麓一帯は、昔からクルミの一大産地だ。



年間降雨量が極端に少ないことや陽あたりがいい高地であることなど、くるみ栽培に適しているのだとか。

私の生まれ屋にも、くるみの樹があった。

台風か何かで倒れ掛かったらしいのだが、斜めにかしいだまま枝を張っていた。

夏には、白髪太夫(シラガダユウ=蛾・クスサンの幼虫)という大きな毛虫やアメリカシロヒトリが好んでたかるものだから、切ってしまった覚えがある。

樹齢50年を超える大木を見かけないのは、病気や虫に弱いこともあるのだろう。


1958年に書かれた信州大学繊維学部(町田博・田中茂光)の研究論文「の系統に関する研究」によれば、シナノクルミは、明治期にアメリカから導入のといった種類(Franque-tteEurekaSan Jose Mayett Paricienne PlacentiaGourland など)と、在来のカシクルミと呼ばれるもの、さらに里山でよく見かけるオニクルミなど日本固有の種も入り、自然に交雑したものだそうだ。

木に馴染みのない人は、クルミはみんな似たような顔をしていると思いがちだけれど、日本原産の鬼のように硬いオニグルミは別として、粒の大きさ、色、形、中の実にいたるまで、そのできは千差万別。

欧米型のクルミも中央アジア原産の在来種もみんな、ペルシャクルミという殻が薄い種を基本にしているから、一見すると似たもの同士に見えるけれど、よいものは明らかにふっくらとして色艶も違う。

長年の栽培で選抜し、より優れた形質を引き継いできたこの地がうんだクルミが、正真正銘「シナノクルミ」ということらしい。

地元で推奨の優秀な品種がすでにあり、接木で育てた苗を植えるのが栽培には安心とか。


同じ一本の木でも雄花と雌花の開花期がずれる。花期の異なる品種の混植がいい。

雄花が先に咲くのは「東晃(とうこう)」、雌花が先なのが「清果(せいこう)」、「要鈴(ようれい)」、「信鈴(しんれい)」。


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