月別アーカイブ: 2011年12月

シアワセ

ちょっぴり永遠というようなものを刻み付ける日があるものだ。ほんの一瞬が永遠に忘れえぬひとコマになる…そんな日がある。なにも歴史的な出来事の話ではない。何気ない暮らしの中で感じたシアワセ。クリスマスやお正月に家族がそろうこと。同窓会や仲間との飲み会。そして大好きなあの人と…みんなちょっぴりの永遠だ。

 昨年のクリスマス、ボクは猫と一緒だった。テレビも七月の停波とともにやめた。ラジオがあるから大丈夫と思っていたが、どうでもいい話がやたら多くて耳障りで聞かなくなった。静かな静かな夜だった。生まれてこのかた初めてヒトリボッチですごしたイブかもしれない。

「さびしかったの?」

うんにゃ、そうではない。たかだか数日のヒトリボッチだ、何をか…ところが、煙草が切れて里のコンビ二へ出かけた時、店内にクリスマスソングが流れていた。聞き入る自分がいた。その時、不意にこのヒトリポッチが胸をついたのだ。クリスマスソングを聞きながら幼い我が子とすごした時が甦っていた。それはとても温かな寂寥だった。永遠というようなものを、知らず知らずに刻みつけてきた自分をふと思った。

 夕刻から山に舞った雪が、冷気と一緒に里に下り、夜半からホワイトクリスマス。静かなヒトリポッチの晩だった。

 

御牧原台地にて

 御牧原に引越してきて間もなくの頃だった。夜中に高校生のセガレが言った。

 「あ~コーラが飲みてぇ。今すぐ飲みてぇ~ッ!」

 冷蔵庫の中にないと分かると 「クソッ!俺には炭酸系が必要だってわかっていやがるくせに….神様、シティーボーイのこの僕に真っ暗闇の夜道を歩いて買いに行けとおっしゃるの?….無理ッす!」  以下、当時のセガレ№1のコーラにまつわる御牧原 (※文中、サシサワリある発言があります、炭酸系禁断症状の者の話、御容赦のほど)

缶コーラの自販機が近くにあるって?どこサ…?火の用心やぐらの 向かいにあるアレか…あそこだけボーっと灯りがともって自己主張してるヤツ….やっぱ、夜中に出るの怖えしッ!

虫がワンサカたかって、蛙がペロペロ舌出してへばりついてるに決まってる……嫌だしッ、ぜってぇ~嫌だしッ!!….俺は全部の虫が怖くて嫌だって言ってるんじゃないよ…わかってねぇな~、俺、虫アレルギー!刺すやつだめ!からだよわいし、避けて当然。・・・なんでこんなひ弱にうまれちゃったのかな?先天的に俺に責任ねぇし。

オヤジは厳しい自然の摂理つうのが分かっちゃいない。いいかい?他人の話に耳をかした事がないその耳をカッポジッテ聞いておくれ。コーラが飲みたい→自販機へ行く→虫がいる→蛙がいる→その蛙を狙って蛇がくる….自販機の上でトグロ巻いてるかもしんね….行けるわけねぇし。

この闇の中をシティーボーイがひとりぽっちで歩いたとしようぜ。小銭と懐中電灯と…おっと、キンチョール忘れちゃいけねぇな! つまり、いろいろ用意して行ったとしようぜ…(ばかばかしので中略)…そんでもって、自販機の前で、ヤレヤレつぅ感じで、コーラ取って、プシュッと蓋あけて、グビグビして、プふぁ~!なんつって一息入れたりするわけョ。それが油断なんだな、気をぬいちゃったら最後、もう帰ってこれねぇ…オシマイよ!

炭酸系がじわ~ッと体にしみわたり、充填レベルが正常値を回復、安心したその時、田んぼの蛙ちゃんの声が一斉にピタッと止む、 と思ったら、背中から、『私にも』 なんつって…ずぶ濡れの長い髪した貧血女が列作っ て並んでたらどうすんだ!

なに?近くに小さな御社(おやしろ)があるから守ってくれる、てか?…そんなもんまであんの!化け物が出るから建てたに決まってるじゃねぇか!…こぇ~!ホレホラ、鳥肌たってきちゃたゼ。iいやな土地へ越してきたもんだな….あのナントカ大橋に変な青い色の街灯いっぱい取り付けたのは、出るからだッて聞いたぞ。橋から何人も川へとびこんだんだってさ。…..どこへ行ってもこのあたり…..ウジャウジャだ、 うじゃうじゃ!

誰か、俺が歩くと感知して、真昼間みてぇにしてくれるでかい投光器、付けてくんねぇかなぁ……..お願い!車でチョチョッと峠を下り、コンビ二までひとっ走りお願いしまぁす…..たった往復2、30分じゃないッすか …ねぇ、おと~さまぁ~。あなたの運転テクニックなら軽トラの尻振って、行って来いで15分?イヨッ、峠のドリフト大魔神!超はえ~!

あの谷間のコンビ二、昼近くになってようやく陽があたるんだよな。 そんな谷間のコンビニでも俺達には命の綱よ….湿気った谷間じゃ、ポテチにカビふいてねぇか、俺シンパイ!…冗談だよ、冗談に決まってんじゃね。…ちょっと思いついたけど、俺がコンビ二の店長だったら、新しい看板作って道端に置く。どんな看板か聞きたくねッ↑? 「この街道、最後のコンビ二です」って看板、どう?…だって、最後じゃん!あの先ず~と店ねぇし!ママチャリ転がして行ったことあっけど、行けども行けどもコンビ二なんかねぇし!ほんとだし!…..アッ、また思い出した!あのコンビ二へ夜中に行くと必ずカブトムシ落ちてるって小学生が言ってたぞ、掃いてかき集めてくればいいって……カブトムシも明るい所に炭酸系あるって知ってんだな。

あれ?一緒にコーラ買いに行ってくれるの?ちょ、ちょっと待ってて!…….俺、ほうき、持ってってみるわ!

 

三界の供養塔

震災から数日後の罹災地の映像が今も脳裏に焼きついている。

「行方知れずの身内を探しあぐねているのかもしれない…」 テレビカメラは一人の婦人の深くうずくまった後姿を写していた。倒壊の自宅から探り出した衣類を着込み数日をしのいだであろう、丸く膨らんだ重ね着姿のその婦人は、自衛隊車両が行きかう泥濘の道にしゃがみこんでいた。  彼女は、しきりに指をからめては汚れを落とすような仕草を続けていた。こすればこするほどまとわり付くヘドロの滑り… 灰色に染まる泥の爪先を見つめながら、ただ呆然とした様子でせわしなくそれを繰り返していた。その指先が小刻みに震えていた。見放せば彷徨い(さまよい)かねない自我の意識を、懸命に繋ぎとめているかのような両の手だった。瀬戸際で持ちこたえた命がまだ紙一重の危うさの中にいる気がして、いたたまれなかった。  ニュース情報を漁ればあさるほど、殺伐とした思いがつのった。土壇場で役にたたないこの国の政治…と思った。国はいらないとさえ思った。テレビ中継の画面を相手に毒づいていた。 しかしそれが内を向いた。「オマエ二いったい何ガ出来ルノ?」

あの日、ほぼ同時刻に地面が揺れ、その後も地震速報が出る度に身構えたというのに….あれから9ヵ月が過ぎた今、2万人もの無二の人々が一時に失われたというニュース=死者数1万5841人(うち身元不明約680人) 行方不明者3493人・警察庁12月9日=をまるで遠い雲をながめるように聞く自分がいる。町の食堂で震災向けの募金箱につり銭を入れることはあっても、ボクが何かの役にたった、などと言えるはずもない。

かつてボクは大仰に書いたものだ。「いかなる時の流れも、いかなる混迷も、全ては個に帰結することを思う・・・唯一無二の輝きを放つ者、それもまた、この個だ・・・・」と。今ここにいる自分を基軸にしないで何を伝えるというのか。私のニュースは身の丈でいい。自分が責任をもって言えることだけを記していこう…そんな思いの中で書いた信条だった。

全ては個に帰結する・・か、それはあたりまえな事なのだが、震災で失った命の数を前にする時、ずいぶん冷酷な言い草であることだらう。ナラバ、オ前ハ、コノ先、ソノ 無二の輝 トヤラニ、どう向き合っていくノ?

ボクはもう一度ここから考え直さないと、何も始まらぬ気がしている。

 =写真=三界供養塔(立科町芦田

 

薄化粧

天気予報が言う「赤道上から来るしめった大気」は蓼科山を越えてくる南風。「大陸からの冷たい季節風」は、浅間連山に沿って走る西風だ。天に向かって両手をひろげながら、ボクは雲を仰ぎ見ている。頭上で渦巻く二つの風は、未明になって雪を運んだ。

 いつまでも暖かさが続いたせいで、さぶくてさぶくて(寒くて)たまらなかった。里に初雪が降った。おお寒、小寒、山から小僧が飛んできた……ハテ、どんな面した小僧が飛んできたのかな?

風が凪いだ。立ち枯れの草木に、雑木林に、屋根に、振り落ちる時が止まっていた。

 

シムシム教

俺は死ぬ」….アッそぉ  「俺はシム」….ふ~ん  「おっれは、必ず、シム!」….はぁ~?   「俺さまは…悟った!」….やッかましいわね、わかったてば、あんたは死ぬのね、アナタも私もそなたもこなたも皆いつか死ぬわけね。あたりまえのことじゃ!

オカアチャンと死について語りました。

あれ?わかったような口きくね~、そんないつかネみたいな余裕かましたシムじゃね~やいッ。禅的にだね 『シム』のなんたるかを俺は悟ったわけよ

あッそッ!お好きなように。

あんレ~?俺が死ぬって言ったらせめて どうして?とか言うのが筋じゃないの、長い付き合いからいって….. 保険持ち出して「いつ死ぬの?」って返されるのも困るけど、「いつでもお好きなように」 てな言い方 ハラタツ!

はぁ~?

いいからお前さんも一度言ってみなさいよ 「私はシム」って。そのうちとか近々とか、ソ~ュ~面倒くせぇことはとりあえず抜きにして、口に出して言ってみな。タチマチわかっちゃうから。だからネ、のどチンコ震わせてシムって言ってみろッてんの!

はいはいッ、ワタシハシム ワタシハシム、ワタシハシム、三回でいい? もっとする?

……もっとする?じゃなくてモットシテだろうに、うッふ~んチャッテ

バッカじゃないの!いいかげんにしなさいよ

 いいから、まじめに サ、心を落ち着けてだね….深く息を吸って、吐いて…..気を入れて試してみなさいよ….お前さんの為を思って言ってんだから。じゃあ見本ね….俺ハぁ~死ぬフぅ~

深呼吸してからネ…………私ふぁ~死ぬフぅ~……….

 どうだい?

………..なぁ~んも、ナイッ!

そんなはずはない。死ぬ事がなんだかこう、気持ちよくわかっちゃって、心がなんツ~か、パァ~ッと開けたような…..悟りだ悟り

いったいなんなのよ、それッ!

だからネッ、教えてあげるからよくお聞きなさい…みんな皆、お互いシム間柄なんだから仲良ししようねッテ、そんな気持ちにな~る

さようでございますの?それはサゾカシ…….おめでたいことでございますこと…アホンダラ教の神主にでもおなりくださいませ…..ホント、死にそうだわ!