日別アーカイブ: 2016年8月19日

空が黄色く見えた日

2016818() 曇 蒸暑 雷雨 黄空「目が変だ、世の中、黄ばんで見える」。目をこすりつつセガレが部屋から飛び出して来た。

僕は若い頃、バンカラ(蛮カラ)旧制中学の校風を色濃く残す高校にいて、寮歌を覚えた際に、春歌も覚えた。明け透けに性を謳歌するその歌を、空き教室の教壇に立ち皆で歌った記憶がある。酒も煙草も多少嗜みつ、思えば生意気にも世間を無礼講で渡る気でいた。公立でありながら女生徒は僅か。基を辿れば儒教の訓なのだろう、別学の気風色濃い学舎だった。

一つ出たホイのよさホイのホイどこぞの娘とする時にゃ…幾つもあるそんな春歌の一節に「太陽が黄色く見えました」とあった。「お前等は知らぬだろうが惚れた女子を抱く時、世界は真ッ黄、黄に染まるノダ。心も魂もとろけるような安堵と言おうか疲労と言おうか…要するに疲労困ぱいの究極形を幸せと呼べ。勇たる者よ、黄色の太陽を拝まずして命を語るなかれ。大いに励め。何事によらず精進せよ」 と訳の分らん事を先輩は力説した。僕等はこれに、幸せの黄色のハンカチとか根も葉もない尾ひれを足して後輩に渡した。

セガレは先日の旧盆休みの最中、家にいなかった。墓参りにも顔を見せなかった。その彼が世界は黄色と…疲労困憊の幸いと言ったのだ。「相手は誰か、美形に違いない、気立てがいいと嬉しい、少し年上でもまぁよいか、孫の顔が早く見たい」 などと瞬時に思い描いてしまった。

夕刻近く確かに空は黄を帯びていた。究極の黄色の陽を見ぬままに、このまま枯れゆく僕の目にも黄色だった。雷雨が小雨となり低層を走る雨雲は薄く斑となって北へ流れた。天を突き上昇した雷雲は雨粒を落としつつ拡散し、陽光を散り跳ねて周囲を淡黄に染めた。陽が暮れかかるにつれ空は微妙に色を変え、朱となり、紫となり、やがて濃紺の闇に沈んだ。

僕は虹の中に居たのかもしれない。

朱空

紫空

ズッキーニ情話

2016817() 立秋 末候 蒙霧升降 (霧が深く降りる)ズッキーニ情話「私ズッキーニ大好き、美味しいわ、ワインの相性もバツグンね。低カロリーでミネラル豊富、フランスやイタリア料理によく使う」。他の誰かが言ったなら「シャラくせぇ」と一語で片づけるけれど、笑顔の君の言葉だから「ウィウィ初耳ナルホドネ」と頷けた。「食わず嫌いはよくないわ」と油で炒めて塩コショウ。茄子に近い食感だった。「ならばナス喰ってりゃ充分じゃないか、確かに火の通りは早くて重宝だけど、こげな妙な野菜が好かれるのは珍しさが一番に違いない」とグズグズ思いつグチャグチャ噛みしめた。止せばよいものを高い種を買い求め100粒ほど蒔いた。君の笑顔の為ならば飛んで火に入る夏の虫

見た目はキュウリ、味はナス、デカけりゃカボチャ。そもそもウリ科カボチャ属だからコレその通り。炎天下にやたら花咲き実をつけた。黄色の雌花を受粉させ一週間もすると収穫、採り残すと瞬く間に細長いカボチャかみたいに巨大化した。その旺盛な成長ぶり、畑へ行くたびギョッとした。 

君は「協力してあげるわ」と助っ人役をかって出たけれどしばらくすると、以下受信メール紹介。「ズッキーニは降参いたします。誠に申し訳ありませんでした (ひらあやまりマーク)」=発信元、ズッキーニ通のオホホ夫人。面と向かって言えぬほど凹んだらしい。畑の暑さにバテ、葉茎の棘に触れて自慢のお肌を傷めたか、何れにせよ笑顔が消えるようでは僕辛い(v◎v)。 

受信箱には他にもメールが届いていた。「16日午後1時頃、東御市〇〇で熊が出没しました。早朝等に周辺で活動している可能性があります」=発信元東御市農林課。 では熊さんへ僕送信 「家の畑に育ち過ぎのズッキーニを山と積んでございます、始末に困ります、初のお味かと思います、よろしかったらどうぞ。 嫁はズッキーニは飽きたそぅです、今度はメロンにしてネと言ってます、メロンが不出来で丸いウリになった時には改めて連絡致します」