空が黄色く見えた日

2016818() 曇 蒸暑 雷雨 黄空「目が変だ、世の中、黄ばんで見える」。目をこすりつつセガレが部屋から飛び出して来た。

僕は若い頃、バンカラ(蛮カラ)旧制中学の校風を色濃く残す高校にいて、寮歌を覚えた際に、春歌も覚えた。明け透けに性を謳歌するその歌を、空き教室の教壇に立ち皆で歌った記憶がある。酒も煙草も多少嗜みつ、思えば生意気にも世間を無礼講で渡る気でいた。公立でありながら女生徒は僅か。基を辿れば儒教の訓なのだろう、別学の気風色濃い学舎だった。

一つ出たホイのよさホイのホイどこぞの娘とする時にゃ…幾つもあるそんな春歌の一節に「太陽が黄色く見えました」とあった。「お前等は知らぬだろうが惚れた女子を抱く時、世界は真ッ黄、黄に染まるノダ。心も魂もとろけるような安堵と言おうか疲労と言おうか…要するに疲労困ぱいの究極形を幸せと呼べ。勇たる者よ、黄色の太陽を拝まずして命を語るなかれ。大いに励め。何事によらず精進せよ」 と訳の分らん事を先輩は力説した。僕等はこれに、幸せの黄色のハンカチとか根も葉もない尾ひれを足して後輩に渡した。

セガレは先日の旧盆休みの最中、家にいなかった。墓参りにも顔を見せなかった。その彼が世界は黄色と…疲労困憊の幸いと言ったのだ。「相手は誰か、美形に違いない、気立てがいいと嬉しい、少し年上でもまぁよいか、孫の顔が早く見たい」 などと瞬時に思い描いてしまった。

夕刻近く確かに空は黄を帯びていた。究極の黄色の陽を見ぬままに、このまま枯れゆく僕の目にも黄色だった。雷雨が小雨となり低層を走る雨雲は薄く斑となって北へ流れた。天を突き上昇した雷雲は雨粒を落としつつ拡散し、陽光を散り跳ねて周囲を淡黄に染めた。陽が暮れかかるにつれ空は微妙に色を変え、朱となり、紫となり、やがて濃紺の闇に沈んだ。

僕は虹の中に居たのかもしれない。

朱空

紫空

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>