2016年02月22日 「おぼろ月夜」庭の杏の枝をはらった。十㍍にも伸びた枝先に手は届かず初夏には葉虫が付いた。薬散布が届かぬ枝先は虫に喰われ、白い糸巣がフワフワと泳いだ。殺虫剤や消毒もだが剪定しないと実をつけないとも教えられた。樹齢おそらく…..還暦を越える大木だ。 八年前、この杏の樹に惹かれて僕はこの家に移り住んだ。朽ち始めた古屋の難を解することなく、まるで生まれ屋に戻ったような懐かしさに憑かれ、終の棲家にしようと決めた。ほのかに紅がさす花色が満開の頃だった。春浅く、受粉の虫も見かけない寒空に花を結び、やがて一面の葉緑に染まる頃、ふと思い出したように熟れた実を地に落とした。…残した枝先に朧の月(おぼろづき)が昇った。花の春は近い。
2016年02月20日 「ボンノクボ考」うちの猫の髪形はフォーマルだ。…男の髪は耳に掛かってはいけない。前髪は額の広さや後退具合に関係なく左右七三に分ける。後髪はうなじを高めに刈り上げ、盆の窪(ボンノクボ)を見せる。そうやって野太い首を背後の者に晒し、「この首取れるものならる取ってみろ」と泰然の意気を示すがよろし。しかし、張り切り過ぎて究極の坊ちゃん刈りにしてはいけない。「ミサイルぶっ放すゾ」と脅す男に似たらフォーマルどころではなくなる。
2016年02月19日 「おてんとさん、イラッシャイ」
部屋に置いた丸椅子にお天道さんが座っていた。窓辺に立て掛けた姿見に反射して、部屋の東から西へとゆっくりとお渡りになる。自室に天の道筋があるようなものだな、.などと。….もそっとユルリと寛いでいって欲しいものだが、大人の尻が半分かかるぐらいの小さな椅子だから、ジンワリと尻をずらし席をお外しになる。時折振り返っては椅子をあてがい直してみたりしている。
目の前を時が行き過ぎていく。時々刻々というが、陽の秒針は刻まない。静かに滲み入るように移っていく。…..随分と日が長くなった。夕刻午後4時半頃には早々と落ちた陽も今は一時間ほど遅い。冬至から年をまたいでもぅ二ヵ月、季節は雨水。
2018年02月15日(月)曇後晴 「椋鳥唱和」冬空に掛かる電線に並ぶこの群をどう見ましょうか、椋鳥の群れ。晩秋にリンゴ畑を荒しやがった族に違いなくも、本日は石も投げずに眺めおり。 ワンサカ舞い来て整列。隣とは席ひとつ分空けるのが並びの流儀と見た…人も似たようなものですな。羽毛を膨らまし丸く身を縮める様、どこと無し愛らしく、七線譜上に拍子符を刻んでおるわいな、と…..しかし、遠目に整然と見え、実はてんでに好きな方を向き、しかも私語慎まず、賑やかこの上なし。統制統率、整列好きの人ならば治まりつかず…..とて、渇を入れれば一瞬に舞い散るのみ….良きかな、よきかな。冷え冷えと闇迫り来て、宿探しに血眼と見受けつつも、束の間の休息の一コマ、仲睦ましく….隣同士は夫婦?兄弟姉妹、親子、恋人、あるいは一群一家一族みな親戚と….想いは尽きず、嬉しや。
群とは命を賭した種の習い、.越冬には群れるに限る、独り野にさすらうは死ぬる覚悟、これ必定。何かと群れたがるその訳は、椋鳥も獣も魚もコレマタ人も命繋がりの、きっとそぉゆう辺りなんでしょうな。
2018年2月13日(土) 「ケンケン踊りを舞うのことよ」日中はストーブが要らなかった…凍てつく寒さが急にこのところ緩み、例年なら雪となる雲が雨を落としそうな空模様だ。 この時期にしては異常かな、異例かな、それとも異質かな、と異の字をまさぐりつ、 これもまた遥か遠くのペルー沖の海がぬくいせいかな、などと….赤道域の海水温の上がり下がりが貿易風を強くしたり弱くしたり。それが僕の頭上のお空まで熱くしたり寒くしたりするとかや(エルニーニョ、ラニーニャ現象)。脳内に珠の地球を浮かべつつ、脳味噌タライにぬるま湯を張って大海原の流れのメカニズムをものにせんと悩んだしだいです。
今日はフキノトウを探し丘の畑を歩いている。夏に喰ったら美味そうな湿りの雪はザクザクと、赤土の凍土も緩んで強粘土質の泥が足を重くする。靴底を上げるほどに張り付く泥を飛ばそうと足を振った拍子に長靴が脱げた。雪が空の雲に溶けて浮遊しそうな天地の狭間で独り、片足あげたまましばし…..ケンケン踊りを舞うの事よ。
2018年2月7日(日) 「山の神様お願いだ」 東御市和(かのう)田沢区(田中栄次区長238戸・655人)の御柱祭へ出かけた。美都穂神社へ奉納の御神木の山出しで、集落の北にある浅間連山烏帽子山系の国有林から赤松の大木(幹周り約2㍍)を長さ五丈五尺(約17㍍)にして切り出した。仮の安置所・御仮屋まで約3㌔㍍の山坂道を、氏子住民ら約200人が太綱で曳き下った。 7年に一度、山の神を里へと下ろし祀る…諸説はあれど地元衆の心の御柱(みはしら)には違いあるまい。起源を遡れば1830年・文政13年寅年4月3日の棟札が現存し、神社の起源由緒からすると更に営々、幾数百年も続いてきた例祭とも。
御幣を掲げつ意気高らか…「山の神様お願いだ」木遣り歌が天まで届けと雪の山々に響く。日本海と太平洋に天水を分かつ中央分水嶺の山麓、命水を育む山里ならではの祭と僕は思う。 今年の里引きは市長選挙がらみで4月3日に移行開催。
シミズさんからコメントをいただきました。ありがとうございます。
「信州上田の武石村の御柱の切り出しは、高齢率のこともあり道々引き手が酔いよいになってしまって、ご神木が前に進まず日ぐれが迫るのだそうです。 引き手に若い衆が重宝され、この春めでたく婿入りが一件決まったとか。まずは、めでたい。」 シミズ
2016年2月05日 「年輪」楢の樹を伐った。膝を折り突っ伏して切り粉を吹きつつ年輪を数えれば、還暦の僕とほぼ同い歳….。 過ぎし日々、一輪また一輪と歳を重ね、還暦の深層より浮く幻影の数多…ただ有象無象、泡の如し。….黙ってこの先を行くことにする.。
信州上田の武石村の御柱の切り出しは、高齢率のこともあり道々引き手が酔いよいになってしまって、ご神木が前に進まず日ぐれが迫るのだそうです。
引き手に若い衆が重宝され、この春めでたく婿入りが一件決まったとか。
まずは、めでたい。